最終更新時刻:2008年9月8日(月) 7時00分

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デジタルメディアはリアルメディアの販促につながるか

公開日時:
2006/04/24 23:34
著者:
ふじたやすし

 ちょっと古めのネタで恐縮だが、宇多田ヒカル「Automatic」の歌詞に、以下のような一節がある。

It's automatic

アクセスしてみると
映る computer screen の中

チカチカしてる文字
手をあててみると

I feel so warm...

 この歌詞を最初に聞いた(見た)ときは、ああ、アメリカ育ちのウタダはコンピュータ・ディスプレイに表示される字に暖かみを感じることができるなんてすげぇなぁと思ったものである。

 だが、「Automatic」が発売された 1998 年から今の 2006 年になってもなお、私も含めて、コンピュータ・ディスプレイの表示に心暖まる気分になれるものかと思う人は少なくないと想像する。

 さて、本題に移ろう。

 ことの発端は、津田大介氏による「CD 売上回復!」というストーリーを作りたいレコード会社たちという記事と、それに対するはてな id:keithmenthol 氏によるメディアリテラシーを考える - 「『CD 売上回復!』というストーリーを作りたいレコード会社たち」は悪質な印象操作だという反論である。

 まず津田氏は、CD の売上「数値」そのものが季節要因を巧みに回避するように算出されていると説き、そういう「数字のマジック」をもって、既成音楽産業が既得権たる CD 生産の正当性を立証せんがために、デジタル音楽配信が CD 売上を伸ばす効果をもたらしたという「大本営発表」をさせたと看破する。
 それに対し keithmenthol 氏は、津田氏の既成音楽産業への「口撃」の仕方は極めて一面的で、バランスを欠いていると批判する。

 詳細は各エントリに目を通していただくとして、私の立場としては keithmenthol 氏を支持したいと思っている。ただし、keithmenthol 氏の主張が必ずしも津田氏の主張の反証となっていないという点は指摘しておく必要を感じる。

 かねてから私は、ことあるごとに各所で「デジタル配信と既存メディアは並存できる」と説いてきた。そして、偶然かもしれないが、我が友人にもそういう考えの者が多いのだ。
 例えば、iTunes Music Store で楽曲を買ってはみたが、やはりそれでは物足りなくてアルバムを購入してしまったという具合にである。

 そういう友人のうちの一人であるジェット☆ダイスケ氏が、興味深いエントリを執筆していたのでここで紹介しておくこととしよう。
 そのエントリは、一部ネット上で話題になった、「新世紀エヴァンゲリオン」テレビ版全 26 話が動画配信サービス YouTube を通じて公開されたという事実に関するものだ。

 ジェット氏は、FPN の「懐かしいアニメの違法コピー放流は、権利者にとって利益にかなうのかもしれない」への言及という形で、以下のように説く。

エヴァの最終回まで見終わったら、映画版 2 作品を観なきゃちゃんと気持ちの整理がつかないわけで、それでお金が落ちて来る機会が増えるならアリじゃないでしょうか。

Web 2.0 的にいうと、ただ持っていても価値はないので、どんどん公開していけば利益を生むということですよね。

 FPN あるいはジェット氏の主張は、エヴァンゲリオンのストーリーに基づいた考察なのだが、私の場合はやはりメディアの限界という側面からもこの点を考えてみたい。

 そこで、冒頭の「Automatic」の歌詞である。

 さすがに、パソコンのディスプレイに表示される YouTube の動画でエヴァンゲリオンの全ストーリーを観、そして感動を得ようとするのは実に骨の折れる作業に違いない。
 だから、もっといい環境、例えば大画面プラズマ・ディスプレイとかホームシアターとかで観てみたいと思う人が現れてくるかもしれない。
 そしてそういう人々は、けして YouTube のこじんまりとした動画表示に甘んじず、嬉々としてメディアを購入することだろう。

 あるいは、そもそもエヴァンゲリオンなんて知りもしなかった若い世代の人たちが YouTube を介してそれに触れたときに、何がしかの興味を覚え、それがメディアの購買という行為を喚起させるであろうことも想像に難くない。
 まさに、ロングテールよろしく消費の裾野を広げる効果を期待できるのだ。

 しかし、法で保障されている著作権者が著作物から経済的利益を得る権利がもし侵されるとしたら、それは許容し難い。
 とはいえ、逆に言えば、著作権者が自ら進んで YouTube などのネット・サービスを用いて著作物たるコンテンツをオープンにすることは、それが顧客にとって必ずしも最終的な取得手段に留まらずにティーザーとして機能する魅力的なマーケティング・ツールとなるかもしれないのだ。

 そういう意味では、音楽配信のようなデジタルメディアと、CD に代表されるリアルメディアとの間の関係についても同じことが言えそうだ。
 つまり、デジタルメディアがそれ以上欠きようのない満足を未だ消費者に与えるものでない現状では、リアルメディアは依然価値を持ち続ける、ということである。
 もう売ってはいないが、「恋のマイアヒ」の、楽曲と Flash アニメーションが同梱されたリアルメディアは、できることなら今でも手に入れたいと私は思っている。そう、つまりそういうことなのだ。

 目の肥えた消費者(私は必ずしもそうではないが)は、けしてネットワーク上を流れるデジタルメディアだけで完全無欠の満足を得ることはないだろう。
 だが、それは彼ら/彼女らにとって、リアルメディアの購買意欲を喚起させるに必要かつ十分な条件なのだ。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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