今、テレビ業界にはやっている病気、いや日本中に蔓延している病気がある。それは「退屈が怖い」という病気だ。彼氏になる条件が「笑わせてくれる人」だったり、子供も大人もじっと我慢する時間がどんどん短くなっている。
「テレビ報道論」(田宮武著・明石書店)で、田宮氏はイギリスの演劇評論家であるM・エスリンの言葉を紹介している。
「本質的には演劇的なメディアであるテレビは、はじめからその本質に基づく特別の要請によって、ドラマチックで、感情的で、個人的な内容をもつ素材に力点を置かざるを得なかった。(中略)ニュースもドキュメンタリーも政治番組も含めて、すべての番組が最終的には娯楽的価値によって判断される」(「テレビ新時代」国文社)
ニュースや情報番組などの報道番組もまたドラマチックに作られる運命を持っている。たとえば、テレビマンユニオンの今野勉氏の書いた「テレビの嘘を見破る」(新潮選書)には「なぜ幻の魚は最終日に釣れるのか」というタイトルでこんなことを書いている。
ある釣り好きな作家が、某国の幻の魚に挑むつり紀行番組です。幻の魚といわれるだけであって、なかなか釣れません。滞在期限も迫って、もうダメかと思われた最後の日、遂に幻の魚を釣りあげたのでした。というのが番組の構成ですが、実は取材の初日に、幻の魚は釣り上げられていたのです。
(中略)
こうした構成にしなければ、番組に与えられた一時間とか二時間という長さをもたせることができないという制作者側の自己都合が、同じようなパターンを生む原因であることは確かですが、一方、視聴者側にはハラハラドキドキして最後にカタルシスを感じさせてもらいたいという期待感があって、制作者側はその期待感を裏切らないために、こうした構成にするのだという見方もあります。(今野勉著「テレビの嘘を見破る」新潮選書)
言われてみれば、多くのドキュメンタリーの作りはこのような形、まるで「ドラマのように」必ず、主人公に危機が訪れて、盛り上がり、クライマックスには成功してほっと安心というパターンばかりである。
一方、情報番組でも、最初は軽い情報、次に重い情報、最後はメインとなる情報の形でクライマックスを作っている。そして、視聴者は心の底ではそのことを期待しているのだ。
さらに、岩波ジュニア選書「テレビとのつきあい方」(佐藤二雄著)でアメリカのジャーナリスト・ディヴィッド・ハルバースタム氏の言葉を紹介している。
@「いまや、アメリカのテレビニュースで絶対に避けなければならないのは、間違っていることでもない、不正確なことでもない、それは視聴者を退屈させることだ」
A「テレビは、話の中身はなくとも映像がよければよい。逆に、話の内容がどんなに大切でも、映像にインパクトがなければだめである」
B「ニュースのひとつひとつはとても重要で、本来それを説明するのに1分30秒では短すぎるし、また、正味30分のニュース時間の総枠では何も報道できない」(佐藤二雄著「テレビとのつきあい方」岩波ジュニア選書)
事実より映像の衝撃、短い関係者の一言、などインパクト重視の姿勢が事実軽視の現代を作っているのではないか。
短いフレーズでわかりやすい小泉首相が祭り上げられたのも、よく聞いても意味がわからない安倍首相の支持が低いのも、小泉首相の政治手法がドラマチックでテレビ的だったからに過ぎない。(「テレビ化社会の症状」参照)
退屈な現実から逃げたい視聴者の姿がほのかに見えてくるのはなぜなのだろうか。
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